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AI推進担当になったら最初の90日でやること:30日ごとに残す成果物で進める行動計画

2026 11/04
AI活用と組織
2026年10月16日2026年11月4日
AI推進担当の最初の90日:30日ごとに残す成果物と行動計画
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「来月から、生成AIの推進を担当してほしい」。そう言われて着任し、最初の数日は資料を読み、あいさつに回って過ぎていきます。気がつくと1か月がたち、上司から「で、どこまで進んだ?」と聞かれる。忙しく動いていたのに、見せられるものが手元にない。推進担当の最初の3か月は、こうなりやすい時期です。

着任直後の1週間に手を動かすことと、記事を読む順番は、推進担当になったら最初に読むページにまとめています。この記事で扱うのは、その先の90日です。着任から90日を30日ずつに区切り、それぞれの期間の終わりに「手元に残すもの(成果物)」を決めて進める計画を示します。

この記事で答える問い

  • 新任リーダーの最初の90日について、どんな考え方が役に立つのか
  • 30日目、60日目、90日目に、それぞれ何が手元にあればよいのか
  • 90日の終わりに上司へ出す報告は、何から書き始めればよいのか

結論:90日を「何をしたか」ではなく「何が手元に残ったか」で区切ります。1〜30日は期待をそろえて状況を見立て、31〜60日は一つの業務で小さな成果をつくり、61〜90日は推進担当がいなくても回る形と、次の半年に向けた報告を残します。成果物が決まっていれば、途中で上司に聞かれても、進み具合を見せられます。

目次

ワトキンスの『The First 90 Days』とは

『The First 90 Days』は、新しい役職に就いたリーダーが、着任後の移行期をどう乗り切るかを扱った本です。書いたのは、スイスのビジネススクールIMDなどで、リーダーの移行(トランジション)を長く研究してきたマイケル・D・ワトキンス氏です。初版は2003年、10周年の改訂増補版が2013年に出ています。邦訳は『90日で成果を出すリーダー ハーバード流マネジメント講座』(伊豆原弓訳、翔泳社、2014年)です。

本で扱っているのは管理職の着任ですが、考え方は、生成AIの推進担当にもそのまま当てはまります。社内チャットや業務システムなど、AI以外の新しいツールの推進を任された場合も同じです。この記事では、そのうち3つの考え方を使います。

損益分岐点に早く達する

同氏は、着任したリーダーが組織にもたらした価値と、組織から受け取った価値(給与や周りの人の時間など)が釣り合う時点を「損益分岐点(ブレークイーブン・ポイント)」と呼びました。移行期の目標は、この時点にできるだけ早く達することです。

推進担当に置き換えると、着任直後は、説明を聞いてもらう時間や、相談に乗ってもらう時間など、周りの手間を使う側にいます。早く「この人がいると仕事が楽になる」と思われる側に移ることが、最初の90日の目標になります。

STARSモデル:状況によってやることが変わる

ワトキンス氏は、リーダーが着任する状況を5つに分けました。頭文字をとってSTARSモデルと呼ばれます。同じ「推進担当」でも、どの状況に着任したかで、最初にやるべきことが変わります。

状況意味生成AIの推進での例
立ち上げ(Start-up)新しい事業や取り組みを始めるまだ全社では使えるようになっていない
立て直し(Turnaround)深刻な問題を抱えたものを立て直す情報の扱いへの不安などで、利用が止められている
急成長(Accelerated growth)急に広がっているものを管理する使う人が急に増え、相談やルールが追いつかない
再編成(Realignment)以前はうまくいっていたが、問題が出始めたものを立て直す導入時は盛り上がったが、今は一部の人しか使っていない
成功の持続(Sustaining success)うまくいっているものを保ち、次の段階に進める使うことが当たり前になり、次の目標が求められている

部署によって状況が違うことは珍しくありません。全社を一つの状況として扱わず、部署ごとに見立てます。

早い段階で小さな成果を出す

同氏はまた、早い段階で目に見える成果(アーリーウィン)を出すことを勧めています。成果そのものより、「この人の言うことは聞いてみる価値がある」という信頼が生まれることに意味があります。ただし、早く出すことを急ぐあまり、状況を知る前に打ち手を決めてしまうことは、新任リーダーの落とし穴として挙げられています。

30日ごとに残す成果物

残す成果物は、1〜30日が期待合意メモ、聞き取り記録と回答の一覧、部署ごとの見立て表、31〜60日が試行計画と試す前と後の比較の記録、61〜90日が続けるための仕組みの一覧と90日報告です。3つの考え方を、30日ずつの計画に落とし込みます。各期間の最後に、表の右端の成果物が手元にあることを目指します。

期間ねらい主な行動期間の終わりに残す成果物
1〜30日期待をそろえ、状況を見立てる上司との期待の確認、部署ごとの聞き取り、利用状況とルールの確認①期待合意メモ ②聞き取り記録と回答の一覧 ③部署ごとの見立て表
31〜60日一つの業務で小さな成果をつくる試行する業務と協力者を決める、試す前の状態を測る、試行と記録④試行計画(1枚) ⑤試す前と後の比較の記録
61〜90日続く形と次の半年の計画を残す試行で分かったことを手順や相談先に移す、90日報告を作る⑥続けるための仕組みの一覧 ⑦90日報告
1〜30日、31〜60日、61〜90日の期間ごとに残す成果物①〜⑦を並べた図

1〜30日:期待をそろえ、状況を見立てる

最初にするのは、上司(多くは担当役員)との期待のすり合わせです。「90日後に何ができていれば成功か」「使える予算と時間はどれくらいか」「どのくらいの頻度で報告するか」を聞き、1枚のメモにして上司に確かめてもらいます。これが①期待合意メモです。

並行して、部署ごとに管理職と実務の担当者に話を聞きます。聞いた内容は②聞き取り記録に残し、その場で答えられなかった質問には、いつ、どう答えたかも書いておきます。最後に、聞いたことをもとに、部署ごとにSTARSのどの状況にあるかを③見立て表にまとめます。

聞き取りでは、「AIリテラシー研修は義務になったと聞いたが、どうするのか」と尋ねられることもあります。法律が実際に求めていることと、役割ごとの研修の決め方は、AIリテラシーは義務?EU AI法とAI推進法から、推進担当が決める研修の中身で整理しています。

31〜60日:一つの業務で小さな成果をつくる

見立て表をもとに、試行する業務を1つ選びます。時間がかかっている、失敗しても影響が小さい、試す前と後を比べやすい、の3つを満たす業務が向いています。対象業務、協力者、測るもの、試行を終える日を④試行計画として1枚にまとめます。

試行を始める前に、今の作業時間や手戻りの回数を測っておきます。後から「前はどうだったか」を思い出して比べても、説得力が出ません。試す前と後の数字と、協力者の感想を⑤比較の記録に残します。

試行計画を固める前に、協力者と「2か月後、この試行は失敗した」と仮定して理由を書き出してみると、計画の穴が先に見つかります。進め方はプレモーテムの記事で紹介しています。

61〜90日:続く形と次の半年の計画を残す

試行で分かったことを、手順書への追記、相談先、使い方の例などに移し、⑥続けるための仕組みの一覧にします。一覧の各行には「誰が持ち主か」を書き、推進担当の名前ばかりが並んでいないかを確かめます。

最後に⑦90日報告をまとめます。報告は「やったこと」から書き始めず、「90日で分かったこと」「上司に決めてほしいこと」「次の半年でやること」の順にします。各部署で一緒に広めてくれる人の選び方は、チェンジエージェントの記事で書いています。

90日の途中で計画がずれかけた3つの例

計画がずれ始めるのは、その期間に残すはずの成果物から目が離れたときです。次の3つは、期間ごとに一つずつ、ずれかけた場面を取り上げた例です。

1〜30日の例:聞き取りのあと、「検討します」が積み上がった

ある推進担当は、着任から1か月で12の部署を回り、要望を丁寧に聞きました。その場で答えられない質問には「検討します」と返し、気づくとそれが20件を超えていました。2回目に訪ねた部署で「前に話したことは、どうなりましたか」と聞かれ、言葉に詰まったそうです。まず聞くことに徹すれば信頼は得られる、と考えていた時期がありました。聞き取り記録に回答の期限の欄を設け、答えられないものは理由を添えて「今回は扱わない」と返すようにすると、少しずつ会話が前に進むようになりました。

31〜60日の例:試行先を「頼みやすさ」で選んだ

早く成果を見せたくて、以前に所属していた部署で試行を始めた例です。協力はすぐに得られ、議事録づくりの時間は短くなりました。ところが社内で共有すると、ほかの部署からは「あの部署だからできたんでしょう」という反応が返ってきました。頼みやすい所で結果を出せば、ほかの部署もついてくると期待していました。次の試行では、見立て表で多くの部署に共通していた業務を選び、その業務を抱える部署に協力をお願いしました。

61〜90日の例:90日報告が、活動の一覧で終わった

90日目の報告で、説明会の回数、聞き取りの件数、相談の件数を丁寧に並べた例です。担当役員は最後まで聞いたあと、「それで、私は何を決めればいいのか」と尋ねました。報告には、次の半年に必要な予算も、協力してもらう部署への依頼も書かれていませんでした。やったことを漏れなく見せるのが報告だ、と私も以前は考えていました。1週間後、決めてほしいことを最初の1枚に置いて出し直すと、何を話し合うかは共有できるようになりました。

90日を進める手順

手順の要は、節目の日と、成果物ごとの持ち主を、動き出す前に決めておくことです。着任した週から90日目まで、次の7つの順に進めます。

  1. 節目を先に予定表に入れる:着任した週のうちに、30日目、60日目、90日目の上司との確認の時間を押さえます。
  2. 期待合意メモを作る:90日後の成功の姿、予算と時間、報告の頻度を1枚に書き、上司に直してもらいます。
  3. 聞いたら期限を決めて返す:聞き取りで出た質問には、回答する日を決めます。答えられないものは、理由を添えて「今回は扱わない」と返します。
  4. 部署ごとに見立てる:聞き取りの内容から、部署ごとにSTARSのどの状況かを書きます。迷ったら、その理由も書いておきます。
  5. 試行の前に測る:試行する業務を1つ選び、始める前の作業時間や手戻りの回数を記録します。
  6. 持ち主を決めて渡す:手順書や相談先など、続けるための仕組みの一つひとつに、推進担当以外の持ち主を決めます。
  7. 報告は「決めてほしいこと」から書く:90日報告の最初に、上司に判断してほしいことを置きます。

聞き取りの相手に偏りがないかは、ステークホルダー分析で関係者を並べてみると確かめられます。

AI活用のポイント:90日報告に、先に突っ込んでもらう

生成AIには上司の役を頼み、90日報告のたたき台に、本番より先に質問させます。報告は、書いた本人には分かりやすく見えるものです。先に突っ込まれておくと、足りない部分を出す前に見つけられます。

これから、私が書いた「90日報告」のたたき台を貼ります。
読む相手は、生成AIの導入を任せてくれた担当役員です。
その役員になったつもりで、次のことをしてください。
1. 報告を読んで、役員が会議で聞きそうな質問を5つ挙げる
2. 報告の各段落を「分かったこと」「決めてほしいこと」「やったこと」のどれかに振り分ける
3. 「決めてほしいこと」が報告の最初の3行に入っていなければ、そう指摘する
4. 書き直しはしない(直すのは私がやる)
[90日報告のたたき台を貼る]

たたき台を貼る前に、部署名や個人名、具体的な金額は、記号や仮の数字に置き換えてください。AIの質問は、上司の実際の関心とずれることもあります。あくまで準備の材料として使います。

90日の成果物チェック表

項目を点検するより、期限ごとに成果物が手元にあるかを確かめるほうが、進み具合をつかみやすくなります。次の表を、上司との確認の場でそのまま使えます。

成果物目安の期限できた状態
①期待合意メモ14日目上司が目を通し、直した跡がある
②聞き取り記録と回答の一覧30日目すべての質問に、回答か「扱わない理由」が書いてある
③部署ごとの見立て表30日目部署ごとにSTARSの状況と、そう見立てた理由が書いてある
④試行計画40日目対象業務、協力者、測るもの、終える日が1枚にある
⑤試す前と後の比較の記録60日目試す前の数字と、試した後の数字が並んでいる
⑥続けるための仕組みの一覧80日目各行に推進担当以外の持ち主の名前がある
⑦90日報告90日目最初の1枚に、上司に決めてほしいことが書いてある

まとめ

  • 最初の90日は、30日ごとに「手元に残すもの」を決めて区切ります
  • 1〜30日は期待をそろえて見立て、31〜60日は一つの業務で小さな成果をつくり、61〜90日は続く形と報告を残します
  • ワトキンス氏のSTARSモデルを使い、部署ごとの状況に合わせてやることを変えます

上司に「で、どこまで進んだ?」と聞かれたときに見せるのは、忙しさではなく番号のついた成果物です。30日目に①から③がそろっていれば、その問いに詰まることはありません。

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参照情報

  • Michael D. Watkins, The First 90 Days: Critical Success Strategies for New Leaders at All Levels, Harvard Business School Press, 2003
  • Michael D. Watkins, The First 90 Days, Updated and Expanded: Proven Strategies for Getting Up to Speed Faster and Smarter, Harvard Business Review Press, 2013
  • マイケル・ワトキンス『90日で成果を出すリーダー ハーバード流マネジメント講座』伊豆原弓訳、翔泳社、2014年
  • Michael D. Watkins, “Picking the Right Transition Strategy,” Harvard Business Review, January 2009

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多一

IT業界で10年以上、国内外のIT企業でエンジニアとITサービスの導入後の定着支援に携わる。現在は生成AIを組織に取り入れ、業務改善につなげる支援をしている。変革管理・組織学習に特に関心があり、組織変革とAI活用を現場で使える形で発信中。

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