いま運営している社内の集まりは、あなたが異動したら、翌月も開かれるでしょうか。
ある部署で3年続いた勉強会が、立ち上げた人の異動が決まった月に、ぱたりと止まる。参加者は誰も困っていなかったし、楽しんでもいた。けれども、会議室の予約も、案内のメールも、毎回の進行も、一人の人が引き受けていた。次の日程を決める人がいないまま、月だけが過ぎていきました。
この記事で答える問いは、次の3つです。終盤では、運営を人に渡すときにそのまま使える引き継ぎ書の例も紹介します。
- 楽しく続いていた集まりが、運営者が抜けたとたんに止まるのはなぜか
- つくる、続ける、手放すのそれぞれの時期に、運営者は何に力を入れればよいか
- 運営を次の人に渡すとき、何を書き残せば集まりは止まらないか
結論:コミュニティマネジメントは、集まりを管理することではなく、つながりと活動が生まれる条件を整える仕事です。整える対象は、人が集まる「場」、集まりの進め方である「プロセス」、活動を続けるための「組織」の3つです。立ち上げの時期は居心地のよい場づくりに力を入れ、続ける時期には運営を一人で抱えないように役割を分け、最後は引き継ぐ、分ける、閉じるのいずれかの形で手放します。運営者がいなくても回る状態をつくることが、運営の到達点です。
コミュニティマネジメントとは:つながりが生まれる条件を整える仕事
コミュニティマネジメントとは、集まりを管理することではなく、場、プロセス、組織の3つを整えて、つながりと活動が生まれる条件をつくる仕事です。地域のまちづくりの現場に関わってきた研究者、坂倉杏介氏・醍醐孝典氏・石井大一朗氏の3人が書いた『コミュニティマネジメント:つながりを生み出す場、プロセス、組織』(2020年)は、地域づくりを、人と人のつながりを育てるマネジメントとしてとらえた本です。同書は、人が交流する「場」、ワークショップや会議などの「プロセス」、活動を持続的に運営する「組織」の3つの視点から、地域を変えていく技術を整理しています。
同書が対象にしているのは地域です。その3つの視点を社内の集まりに置き換えると、次のようになります。

| 視点 | 社内のコミュニティでいえば | 運営者が考えること(例) |
|---|---|---|
| 場 | 集まる時間と場所(会議室、オンラインの部屋、チャットのチャンネル) | 誰でも来やすい時間か。初めての人が入りにくい雰囲気になっていないか |
| プロセス | 毎回の進め方(話題の出し方、発表の順番、振り返り) | 話す人が毎回同じになっていないか。来た人が何かを持ち帰れるか |
| 組織 | 役割分担、続けるためのルール、会社や上司との関係 | 運営が一人に集中していないか。業務時間内の活動として認められているか |
3つのうち、目に見えやすいのは場とプロセスです。けれども、冒頭の勉強会が止まったのは、場やプロセスに問題があったからではなく、組織の視点が抜けていたからでした。
3つの時期:つくる、続ける、手放す
コミュニティの運営は、つくる、続ける、手放すの3つの時期で、力を入れるところが変わります。同書の3つの視点に3つの時期を掛け合わせると、いつ何を整えるかが一枚の表になります。
| つくる | 続ける | 手放す | |
|---|---|---|---|
| 場 | 居心地のよさを最優先にする | 初めての人が入れる余地を残す | 場所や時間の決まりを、次の人が使える形で残す |
| プロセス | 運営者が進行して、場を温める | 進行や話題出しを、参加者に少しずつ渡す | 毎回の進め方を、書いた形で残す |
| 組織 | 上司や関係者に、目的を一文で伝えておく | 役割を分け、交代できるようにする | 引き継ぐ、分ける、閉じるのどれにするかを決める |
実践共同体(CoP)の研究では、コミュニティが生まれてから変容するまでの段階が描かれています。段階の詳しい説明は実践共同体(CoP)とは?学び合う集団の3つの要素に譲り、この記事では運営者の手元の仕事に絞ります。
つくる:最初に整えるのは居心地
集まりをつくる時期は、肩書きを外して話せ、会話そのものを楽しめる居心地のよさを最優先に整えます。場づくりを考えるときによく引かれるのが、アメリカの都市社会学者レイ・オルデンバーグ氏が唱えた「サードプレイス」です。同氏は1989年の『The Great Good Place』(邦訳『サードプレイス』みすず書房、2013年)で、家庭(第1の場所)でも職場(第2の場所)でもない、気軽に集まって過ごせる場所が、暮らしと地域を支えていると論じました。カフェや酒場のようなその場所では、肩書きや立場が問われにくく、会話そのものが主な楽しみになります。
社内のコミュニティは職場の中にあるので、厳密にはサードプレイスではありません。それでも、オルデンバーグ氏が街なかの居場所に見いだした条件は、社内の集まりの立ち上げにも、次のような工夫として生かせます。
- 肩書きを外して話せる工夫をする:自己紹介は所属より「最近試したこと」から始める、役職の高い人に最初に話してもらわない、など
- 会話が目的になる時間を残す:発表を詰め込みすぎず、終わりの10分は雑談や質問にあてる
- 少人数で始める:最初から大人数を集めるより、話の続きをしたくなる5〜6人から始める
立ち上げの数回は、運営者が進行して、場を温める役を引き受けます。この時期に役割を分けようとすると、まだ集まる理由が育っていないので、引き受ける人が出てきにくいからです。
続ける:運営を一人で抱えない
集まりが定着してきたら、運営者の仕事を、少しずつ参加者に渡していきます。最初に渡しやすいのは、毎回の作業として切り出せる役割です。
| 役割 | 仕事の中身 | 渡すときの頼み方(例) |
|---|---|---|
| 案内係 | 日程の告知、会議室やオンラインの部屋の用意 | 「次回の案内だけ、出してもらえませんか。文面はこれまでのものを使ってください」 |
| 進行係 | 当日の時間管理、話題の振り分け | 「前半の15分だけ、進行をお願いできますか」 |
| 記録係 | 話に出たことを、短く残す | 「よかった話を3つだけ、チャンネルに書いてもらえますか」 |
| 話題係 | 次回のテーマや発表者を集める | 「次に聞いてみたいことを、二人くらいに聞いておいてもらえますか」 |
頼むときは、役割を丸ごと渡すより、1回分、15分ぶんのように小さく区切ります。そのほうが、相手も気軽に引き受けられます。何度か担当した人は、次の運営の担い手の候補になります。
組織の視点では、上司や関係者との関係も、続けるための条件です。業務時間内に参加してよいのか、会議室を使ってよいのかが曖昧なままだと、参加者が忙しくなった時期に、集まりは真っ先に後回しにされます。
手放す:引き継ぐ、分ける、閉じる
運営の手放し方には、次の人に引き継ぐ、役割を分ける、集まりを閉じるの3つの形があります。運営を手放すのは、運営者の異動や退職のときだけではありません。運営者が忙しくなったとき、集まりの目的が変わってきたときも、手放し方を考える時期です。

| 形 | 向いている状況 | 運営者がすること |
|---|---|---|
| 引き継ぐ | 集まる理由がまだあり、次の運営者が見つかる | 引き継ぎ書を作り、数回は一緒に運営してから渡す |
| 分ける | 一人で運営する人がいないが、役割ごとなら引き受ける人がいる | 役割を分け、まとめ役を持ち回りにする |
| 閉じる | テーマが職場で当たり前になり、集まる理由が薄れた | 最終回を開き、残した記録の置き場所を伝える |
閉じることは、失敗ではありません。たとえば、ある道具の使い方を学ぶ集まりなら、その道具が職場で普通に使われるようになった時点で、集まりは役目を終えたといえます。無理に続けるより、きちんと終わらせて、残した記録を次の集まりに生かすほうが、参加者の経験も報われます。
例:社内の業務改善会の引き継ぎ書
引き継ぎ書で効くのは、日程や担当の一覧より、「口に出していないルール」と「やめてよいこと」の2項目です。事務部門の多い数百人規模の会社で、業務改善のアイデアを持ち寄る月1回の集まりを2年運営してきた人が、異動することになりました。次の運営者に渡した引き継ぎ書を、項目ごとに並べます。
| 項目 | 書いた内容 |
|---|---|
| この集まりの目的(一文) | 部署をまたいで、業務改善の小さな工夫を見せ合い、真似してよい形で持ち帰る |
| 開催の型 | 毎月第2木曜の17時から45分。前半20分は2人が工夫を紹介、後半は質問と雑談 |
| よく来る人 | 常連は8人ほど。半分は経理と総務。初めての人が月に1〜2人来る |
| 役割と担当 | 案内は持ち回り(担当表はチャンネルの固定メッセージ)。記録は総務のMさんが続けてくれる |
| 口に出していないルール | 紹介する工夫は、完成していなくてよい。質問は「なぜ」より「どうやって」から |
| 会社との関係 | 業務時間内の参加として、部長の了承を得ている。半期に一度、部長に1行で報告している |
| やめてよいこと | 毎回の議事録は、要点3つで十分。前任者が全文を書いていたのは、やりすぎだった |
引き継ぎ書は、日程と担当の一覧さえあれば足りるものだと見られがちです。ところが、抜けやすいのは「口に出していないルール」と「やめてよいこと」のほうでした。前の運営者が当たり前に守っていたことほど、書かないと次の人に伝わりません。逆に、前の運営者のこだわりまでそのまま渡すと、次の人には重荷になります。
この引き継ぎ書の項目は、手放す時期でなくても、自分の集まりを点検するのに使えます。いま書いてみて埋まらない項目があれば、そこが、運営者の頭の中にしかない部分です。
AI活用のポイント:運営の記録から、引き継ぎ書の下書きを作る
引き継ぎ書は、運営の記録を生成AIに渡して下書きさせ、常連に確かめてもらうと、白紙から書くより早く仕上がります。材料になるのは、案内のメール、チャンネルの書き込み、自分の運営メモです。参加者の名前は仮の呼び名に変え、社外秘に当たる話は貼り付ける前に削っておきます。
社内のコミュニティの運営を、次の人に引き継ぎます。
下に、これまでの案内文、チャンネルの書き込み、運営メモを貼ります(個人名は伏せています)。
これをもとに、次の項目で引き継ぎ書の下書きを作ってください。
1. この集まりの目的(一文)
2. 開催の型(頻度、時間、進め方)
3. 役割と担当
4. 口に出していないけれど、守られているように見えるルール
5. 会社や上司との関係
6. 前の運営者がやっていたが、やめてもよさそうなこと
記録から読み取れないことは、推測で埋めず「要確認」と書いてください。
[ここに案内文、書き込み、運営メモを貼る]
4番と6番は、AIの読み取りが外れやすい項目です。下書きを常連の参加者に見せて、「これで合っている?」と確かめてから、次の運営者に渡してください。
まとめ
コミュニティマネジメントは、集まりを管理することではなく、場、プロセス、組織の3つを整えて、つながりと活動が生まれる条件をつくる仕事です。つくる時期は居心地を優先し、続ける時期には役割を小さく区切って渡し、手放す時期には引き継ぐ、分ける、閉じるのどれにするかを決めます。
運営しているコミュニティがあるなら、手始めは、次の回の案内か進行のどちらか一つを、誰かに一度だけ頼むことです。引き受けてくれる人がいるかどうかが、その集まりが運営者なしで続くかどうかの、最初の手がかりになります。
冒頭の勉強会に足りなかったのは、熱意でも参加者でもなく、次の日程を決める二人目でした。あなたの集まりで、その二人目の顔は浮かぶでしょうか。
連載:越境学習とコミュニティ
職場の外で学び、つながりを組織の力にするまでを、12本で順にたどる連載です。
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参照情報
- 坂倉杏介・醍醐孝典・石井大一朗『コミュニティマネジメント:つながりを生み出す場、プロセス、組織』中央経済社、2020年
- Ray Oldenburg, The Great Good Place, Paragon House, 1989(邦訳:レイ・オルデンバーグ『サードプレイス:コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」』忠平美幸訳、みすず書房、2013年)




