野外の音楽フェスの芝生で、上半身裸の男性が一人、音楽に合わせて変な踊りを始めます。周りの人は座ったまま、遠巻きに眺めています。しばらくして、一人の若者が立ち上がり、彼の隣で一緒に踊り出します。そこから二人目、三人目が加わり、最後には周りの人たちが次々と踊りの輪に駆け込んでいきます。
インディーズ音楽の通販サイト「CD Baby」を立ち上げたアメリカの起業家、デレク・シヴァーズ氏は、2010年のTEDで、この動画を流しながら約3分の話をしました。題は「How to start a movement」(当ブログ訳:ムーブメントの起こし方)です。同氏がこの動画から引き出した教訓は、動きを起こしたのは踊り始めた男性だけではない、ということでした。
新しいツールを社内に広めたい、チームのやり方を少し変えたい。そんなとき、私たちはつい「最初に始める人」の頑張りばかりを考え、説明して回ろうとします。けれども、始めた人がいちばん力を注ぐべきなのは、説得よりも、最初に加わってくれた一人を周りから見えるようにすることです。この記事では、シヴァーズ氏の話から、その一人の役割と迎え方を読み取ります。
一人で始めた試みが動きになるかどうかは、最初に加わる人で決まります。あとから加わる人がまねるのは、始めた人より、その最初のフォロワーのほうだからです。始める人は、まねしやすい形で始め、最初に加わった人を対等な仲間として迎え、その姿が周りから見える場所でやります。
最初のフォロワーとは
最初のフォロワーとは、一人で何かを始めた人に最初に加わり、その人を「変わった人」からリーダーに変える人のことです。シヴァーズ氏の話の要点は、次の3つにまとめられます。
- リーダーには、笑われても一人で立つ覚悟が要る。 ただし、始めることは、ほかの人が加わりやすいように、簡単にまねできるものでなければならない
- 最初のフォロワーが、一人の「変わった人」をリーダーに変える。 最初のフォロワーが加わることで、ほかの人に「どうやって加わればよいか」が示される
- 新しく加わる人は、リーダーではなくフォロワーをまねる。 だから、フォロワーの姿が周りに見えるかどうかで、次の人が来るかどうかが決まる

動きで見る:一人の踊りが、動きになるまで
シヴァーズが紹介した野外フェスの場面を、3つの場面に分けて再生します。場面のボタンで行き来もできます。
人の数や並び方は「例」です。場面の説明は、デレク・シヴァーズのTEDトーク(2010年)の内容によります。
シヴァーズ氏は、リーダーシップは持ち上げられすぎていると言い、最初のフォロワーになることも、過小評価されているリーダーシップの一つの形だと述べています。話の最後は、すばらしいことを一人でしている人を見つけたら、最初に立ち上がって加わる勇気を持とう、という呼びかけで締めくくられます。
チェンジエージェントとの違い
変革を現場に広げる人というと、チェンジエージェントを思い浮かべる人もいるでしょう。チェンジエージェントは、推進する側が選び、任命し、支える役割です。一方の最初のフォロワーは、誰にも任命されず、自分の判断で加わる人です。任命された推進役がいる職場でも、実際に周りが動き出すきっかけは、案外、こうした自発的な最初の一人だったりします。チェンジマネジメントの計画では任命した推進役に目が向きがちですが、名前の挙がらないその一人にも目を配っておきたいところです。
普及研究の採用者区分に当てはめると、最初のフォロワーの多くはアーリーアダプターに入りそうです(区分との対応づけは、当ブログが考えたものです)。普及曲線のどこにいるかという見立てはイノベーター理論の記事に任せ、ここでは最初の一人と始めた人との関係を追います。
始めた人が、最初のフォロワーのためにできること
始めた人ができるのは、まねしやすく始めること、対等な仲間として迎えること、周りから見える所でやること、次の人への声かけをフォロワーに任せることの4つです。シヴァーズ氏の話は、フォロワーの勇気をたたえる話として紹介されることが多いのですが、始める側にとっての教訓も含んでいます。同氏の指摘から、始めた人がすることを当ブログで4つ取り出し、職場の場面に合わせて並べました。

1. まねしやすく始める
シヴァーズ氏は、始めることは簡単にまねできるものであるべきだと述べています。踊りの男性の動きは、誰でもすぐまねできるものでした。職場でいえば、新しいツールを広めたいときに、最初から全機能の使い方を説明するより、「問い合わせへの回答の下書きを、この共有ページに貼るだけ」といった、5分でできる最初の一歩を用意したほうが、手を挙げる人が出てくる見込みは高まります。
2. 対等な仲間として迎える
シヴァーズ氏は、最初のフォロワーが加わったとき、リーダーはその人を対等に受け入れ、もはや自分一人の話ではなく、二人の話になると指摘しました。職場でいえば、最初に試してくれた人を「手伝ってくれた人」で終わらせず、名前を出して紹介し、工夫したことの手柄を分けることです。
組織文化研究の草分けとして知られるエドガー・H・シャイン氏は、息子のピーター・A・シャイン氏と書いた『Humble Leadership』(2018年、邦訳『謙虚なリーダーシップ』)で、役割や肩書きによる関係を超えて、互いを一人の人として知り、率直に話せる関係(同書の言う「レベル2」の関係)を築くことを勧めています。最初のフォロワーとの関係は、この役割を超えた関係から始まります(シャイン氏の議論を最初のフォロワーに当てはめたのは当ブログです)。
3. 周りから見える所でやる
新しく加わる人はフォロワーをまねる、というシヴァーズ氏の指摘は、裏返せば、フォロワーの姿が見えなければ、次の人は加わらないということです。新しいやり方を試すなら、自分のパソコンの中や個人のメモで終わらせず、チームの会議や共有のチャンネルなど、周りの人の目に入る場で使います。見えない所でどれだけ上手に使っても、次の人は現れません。
4. 次の人への声かけを、フォロワーに任せる
始めた人が何度も「使ってみてください」と言うより、最初のフォロワーが「私もやってみたら、これが楽になった」と話すほうが、周りには届く場合も多いものです。始めた人は前に出続けるより、フォロワーが話せる場面をつくる側に回ります。
例:問い合わせ回答の下書きページが、チームに広がり始めるまで
ある課で、課長代理のTさんが、取引先からの問い合わせへの回答を生成AIで下書きし、共有ページに貼っておく試みを一人で始めたところから、8週間の様子を追います。
| 時期 | 起きたこと | Tさんがしたこと |
|---|---|---|
| 1週目 | Tさんだけが共有ページに回答の下書きを貼る。周りは「Tさん、何か始めたらしい」と見ている | 手順を「AIの下書きをこのページに貼るだけ」の1行にして、ページの先頭に置いた |
| 2週目 | 隣の席のUさんが、自分が受けた問い合わせの下書きを同じページに貼ってみる | 朝会で「Uさんが試してくれて、こんな書き方を工夫してくれた」と、Uさんの工夫として紹介した |
| 4週目 | Uさんが、下書きを手直しして返信に使った話を、雑談で後輩のVさんに話す | Uさんに、週1回の課内の共有の時間で、使い方を5分話してもらうよう頼んだ |
| 8週目 | Vさんを含めて数人が、ときどきページに下書きを貼るようになる。まだ使っていない人から「どこから始めればいいか」と聞かれることも出てきた | 答えは、Uさんがまとめた「最初の5分」のメモに任せ、自分は使い方の質問を集める側に回った |
一人で始める側に立つと、丁寧に説明して回れば広がるはずだ、と考えてしまいがちでした。この例で、Tさんが周りを直接説得した場面は、ほとんどありません。動きが少しずつ広がり始めた節目は、2週目にUさんが加わったとき、そして4週目にUさんが自分の言葉で話し始めたときでした。
最初のフォロワーになる、という選択
職場で誰かが、よさそうなことを一人で試しているのを見かけたら、最初に「私もやってみます」と、周りに聞こえる形で言ってみてください。この記事を読んでいる人の中には、自分から何かを始める立場ではない、と感じている人もいるでしょう。シヴァーズ氏の話は、そういう人にも向けられています。
最初のフォロワーになるのは、始めることより小さな一歩です。けれども、職場の動きは、上からの指示だけで生まれるわけではありません。その一歩が、一人の試みを動きに変えるかどうかの分かれ目になり得ます。
始めた人が、つい言ってしまうこと
始めた人の何気ない一言が、かえって最初のフォロワーを遠ざける、という皮肉も起こります。当ブログで考えた言い換えの例です。
| つい言ってしまうこと | 相手に伝わること | 代わりに言うこと |
|---|---|---|
| 「全部の機能を覚えれば、すごく便利になりますよ」 | 最初の一歩が大きく、重たく感じる | 「まずは、この1つだけ試してみてください」 |
| 「手伝ってくれてありがとう」 | 自分は、あなたの取り組みの手伝い役だと感じる | 「Uさんの書き方のほうが分かりやすいので、みんなにも紹介させてください」 |
| 「使っていない人にも、私から声をかけておきます」 | 自分の経験を話す出番がなくなる | 「使ってみてどうだったか、次の共有の時間に話してもらえますか」 |
| 「うまくいったら、正式に展開します」 | いまの試みは、まだ本気ではないと受け取られる | 「いま一緒に試しているこのやり方を、少しずつ育てていきましょう」 |
AI活用のポイント:最初の一歩を「5分でできる形」にする
始めた人は、自分が慣れているぶん、最初の一歩を大きく見積もりがちです。生成AIに、加わる人の立場から手順を短くしてもらうと、まねしやすい形が見えてきます。社名や社外秘のツール名は、「A社」「社内ツール」のような一般的な言い方にして入力しましょう。
職場で、新しいやり方を同僚に広めたいと考えています。
私はもう慣れていますが、同僚は初めて触れます。
広めたいやり方:
[例 会議のメモを共有ページに書き、生成AIで要点をまとめる]
いま私が使っている手順:
[例 1. 会議の前にページを作る 2. テンプレートを貼る 3. 会議中に書く 4. 会議後にAIで要約する 5. 要約をチャットに共有する]
次の順で答えてください。
1. 初めての人が、5分以内でできる「最初の一歩」を1つだけ選んでください
2. その一歩を、1〜2行の手順に書き直してください
3. 残りの手順は、どの順番で、どのくらい慣れてから足すとよいかを示してください
4. 初めての人が、つまずきそうな点を2つ挙げてください
出てきた「最初の一歩」は、自分で一度やってみて、本当に5分で終わるかを確かめてから、周りに見せてください。
まとめ
一人で始めた試みを動きに変えるのは、最初に加わる一人です。シヴァーズ氏は、最初のフォロワーが一人の変わった人をリーダーに変え、あとから加わる人はフォロワーをまねると述べました。だから始めた人の仕事は、説得して回ることより、まねしやすい形で始め、最初のフォロワーを対等な仲間として迎え、その姿が周りから見えるようにし、次の人への声かけをフォロワーに任せることです。
最初に加わってくれた人がいたら、次の会議では、その人の名前と工夫を自分の口から紹介する番です。
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参照情報
- Derek Sivers, "How to start a movement," TED2010, 2010(本人のサイトでは "First Follower: Leadership Lessons from Dancing Guy" として書き起こしを公開)
- Edgar H. Schein and Peter A. Schein, Humble Leadership: The Power of Relationships, Openness, and Trust, Berrett-Koehler, 2018(邦訳:エドガー・H・シャイン、ピーター・A・シャイン『謙虚なリーダーシップ』野津智子訳、英治出版、2020年)
- Everett M. Rogers, Diffusion of Innovations, 5th ed., Free Press, 2003




