「説明会を開いたのに、反対の声が収まらない」「会議では誰も反対しないのに、現場では何も変わらない」。変革を任された人なら、どちらかには覚えがあるはずです。
そこで「どう説得するか」から考えはじめると、たいてい遠回りになります。抵抗には4つのタイプがあり、説得でほどけるのはそのうち「誤解・不信」の1つだけだからです。残りの3つには、説明を重ねても届きません。申請の手順を一つ増やすくらいの小さな変更でも、この構図は変わりません。
この記事で答える問い
- 変革への抵抗は、どんな原因から起きるのか
- タイプごとに、どんな手が効くのか
- 自分の現場の抵抗を、どう見立てればよいのか
残りの3つは「失うものがある」「見立ての違い」「変化への不安」です。この分け方は、ハーバード・ビジネス・スクールで教えていたコッター氏とシュレシンジャー氏が1979年に示した抵抗の原因がもとです(詳しくは後の節で)。抵抗は、計画と現場のいまのずれを教えてくれる情報でもあります。だから先に声を集め、タイプを見立ててから手を選びます。
変革への抵抗とは?「抵抗勢力」と呼ぶ前に知っておきたいこと
この記事でいう「抵抗」は、変革に対して人が見せる、ためらいや反発のすべてを指します。はっきり反対する声だけではありません。黙って従わない、形だけ従う、先延ばしにする、といった目に見えにくい反応も含みます。
抵抗は「参加」で変わる:コックとフレンチの研究
抵抗の研究は古く、1948年に学術誌『Human Relations』に載った論文「Overcoming Resistance to Change」がよく知られています。書いたのは、レスター・コック氏と、のちに「社会的勢力の5類型」で知られる社会心理学者ジョン・R・P・フレンチ氏です。米国の縫製工場で作業方法を変えたとき、変更の検討に従業員が参加したグループほど、変更後の生産性の回復が早く、反発や離職も少なかったと報告されています。
この研究から読み取れるのは、抵抗はその人の性格だけでは決まらない、ということです。変革の進め方しだいで、大きく変わります。
コッターとシュレシンジャーの「4つの原因」
現場で抵抗を見立てるときに手がかりになるのが、ジョン・P・コッター氏とレオナード・A・シュレシンジャー氏が1979年に『ハーバード・ビジネス・レビュー』に発表した論文「Choosing Strategies for Change」の整理です。コッター氏は「変革の8段階」でも知られています。
2人が挙げた、人が変革に抵抗する4つの主な原因は次のとおりです。
| 原因 | 中身 | よく聞く言葉 |
|---|---|---|
| 自分の利益が損なわれる | 立場、権限、評価、慣れた仕事など、価値あるものを失うと感じる | 「うちの部署の役割がなくなる」 |
| 誤解と不信 | 変革の意味や影響を誤解している。推進側を信頼していない | 「どうせ人を減らすためでしょう」 |
| 見立ての違い | 変革のコストと効果について、推進側と違う評価をしている | 「その方法では現場が回らない」 |
| 変化への耐性が低い | 新しいやり方を身につけられるか、不安が大きい | 「新しいやり方についていけるか不安」 |
そのうえで2人は、抵抗への対応として6つの方法を挙げ、状況に合わせて選ぶべきだとしました。6つの方法は、教育とコミュニケーション、参加と関与、支援とサポート、交渉と合意、操作と取り込み、明示的・暗黙的な強制です。後ろの方法ほど早く効く一方で、信頼を損なうリスクが大きくなります。

抵抗は「情報」でもある
2008年、組織変革を研究するジェフリー・D・フォード氏らは、論文「Resistance to Change: The Rest of the Story」で、抵抗の見方が推進側に偏っていると指摘しました。抵抗を「変化を受ける側の非合理な反応」とみなしがちだが、実際には推進側の言動(説明不足や約束を守らないことなど)も抵抗を生んでいる。そして抵抗は、変革を良くするための資源にもなり得る、という主張です。
もう一つ、組織行動学者のサンディ・クリスティン・ピダーリット氏は2000年の論文で、人の変革への態度は賛成か反対かの二択ではなく、「頭では賛成だが、気持ちは不安」のように揺れ動くものだと論じました。
この記事では、この2つの視点を踏まえて、抵抗を「説き伏せる相手」ではなく「見立てる対象」として扱います。
抵抗のタイプごとに、どう向き合えばよい?
向き合い方は、抵抗のタイプによって変わります。この記事では、2人の挙げた4つの原因をそのまま抵抗の「タイプ」として使います。タイプごとの見分けるヒント、主な対応、避けたいことは次のとおりです。一人の中に複数のタイプが混ざっていることも珍しくありません。いちばん強いものから手を打ちます。

| タイプ | 見分けるヒント | 主な対応 | 避けたいこと |
|---|---|---|---|
| 失うものがある | 反対の理由が「自部署」「自分の役割」に集中する | 交渉と合意、参加と関与 | 「会社のためだから」と正論で押す |
| 誤解・不信 | 事実と違う前提で話している。「どうせ」が口ぐせ | 教育とコミュニケーション | 資料を配って終わりにする |
| 見立ての違い | 具体的な代案や、運用上の懸念を出してくる | 参加と関与 | 「抵抗」と呼んで議論を打ち切る |
| 変化への不安 | 「できるか分からない」「今は忙しい」が中心 | 支援とサポート | 期限だけ示して放っておく |
タイプ1:失うものがある
変革によって、立場や権限、評価、慣れ親しんだ仕事を失うと感じている状態です。本人にとっては合理的な反応なので、説得だけでは動きません。
向き合い方:何を失うと感じているのかを具体的に聞きます。失うものを補う役割や評価の仕組みを用意できるなら、交渉して合意します。変革の設計に加わってもらい、新しいやり方の中に役割をつくるのも有効です。慣れたやり方を手放すことが避けられない変化は、手順や研修を整えるだけでは進みません。そうした変化の見分け方は、適応課題とは?技術的問題との違いの記事で解説しています。
タイプ2:誤解・不信
変革の目的や影響が正しく伝わっていない、または推進側が信頼されていない状態です。過去に「説明と違った」経験があると、どんな説明も疑って聞かれます。
向き合い方:一方的な説明会より、少人数で質問を受ける場を増やします。分かっていないことは「まだ決まっていない」と正直に伝えます。信頼は、約束したことを守る積み重ねでしか戻りません。
タイプ3:見立ての違い
変革の必要性は分かっているが、「その方法では現場が回らない」と評価している状態です。実務を知る人ほど、このタイプになりやすい傾向があります。
向き合い方:推進側が間違っている可能性を認め、計画づくりに参加してもらいます。指摘を受けて計画を直したら、そのことを本人と周囲に伝えます。このタイプの声は、4つの中でいちばん変革の質を上げてくれます。「いつも反対する人の言うことだ」と聞き流していないかは、確証バイアスとは?例と対策の手順で確かめられます。
タイプ4:変化への不安
新しいやり方を身につけられるか、忙しい中で対応できるかに不安がある状態です。変革そのものに反対しているわけではありません。
向き合い方:研修、相談窓口、慣れるまでの期間、業務量の調整など、移行を助ける手当てを用意します。ADKARモデルでいえば、Knowledge(知識)とAbility(能力)を支える段階です。
「操作」と「強制」の扱い
コッター氏とシュレシンジャー氏は、情報を都合よく選んで見せる「操作と取り込み」や、人事上の圧力で従わせる「強制」も選択肢として挙げています。どちらも早く効く一方で、相手が気づいたときに信頼を大きく損ない、次の変革への抵抗を強めます。
法令対応などで期限が動かせない場面を除けば、この記事ではおすすめしません。使わざるを得ない場合も、決めた理由と今後の支援をあわせて伝えることが最低限の条件です。
抵抗の理由を読み違えた例
次の3つはどれも、最初に抵抗のタイプを読み違えていた例です。
例1:説明を重ねても、ある部署の反対が続いた
会議室の予約を、新しい予約システムでの先着順に切り替えることになりました。ある部署だけが反対を続け、推進側は説明会を2回重ねました。最初は「仕組みが伝わっていないだけ」と見ていました。個別に話を聞くと、その部署は毎週の来客対応のために、慣例で同じ部屋を押さえてきたと分かりました。誤解ではなく「失うものがある」タイプでした。定例で使う部屋の扱いを、その部署も加わって予約のルールに書き込むと、反対の声は少し和らぎました。
例2:「抵抗勢力」と呼んだ瞬間、議論が止まった
推進会議で、懸念を何度も出すメンバーを、誰かが「抵抗勢力」と呼びました。それ以来、そのメンバーは会議で発言しなくなりました。その場で呼び方を正さず、正直、少しほっとしていました。数か月後、本番の運用が始まると、そのメンバーが以前指摘していた問題がそのまま起きました。「見立ての違い」の声を、抵抗として片づけていたのです。批判やラベリングによる整理は、推進側に一時的な安心をもたらしますが、それを受けた側は不快な気分となり推進への協力を拒むようになります。
例3:賛成していた人が、いちばん動かなかった
会議では毎回うなずいていた管理職が、自分の部署では新しいタスク管理ツールを使わず、口頭とメールで指示を出し続けていました。賛成している人だから大丈夫だろうと、声をかけずにいました。話を聞くと、自分の操作に自信がなく、部下の前で戸惑う姿を見せることが不安だったそうです。管理職だけで先に操作を試す時間を設けると、その部署でも少しずつ使われ始めました。経営と現場の橋渡し役・通訳となる管理職を味方に巻き込むことは大変重要です。反対の声がないことは、抵抗がないことを意味しません。
抵抗には、どんな順番で手を打つ?
抵抗には、声を集める、タイプに振り分ける、推進側に原因がないか確かめる、軽い対応から選ぶ、反映したことを伝える、見直す、の6つのステップで向き合います。一度で終わらせず、変革の段階が進むたびに繰り返します。

- 抵抗の声をそのまま集める:誰が、どんな場面で、どんな言葉で反対しているかを記録します。会議の発言だけでなく、1on1や雑談で出た声、黙って進まない部署も対象です。
- 4つのタイプに振り分ける:集めた声を「失うものがある」「誤解・不信」「見立ての違い」「変化への不安」に分けます。迷う声は、本人にもう一度聞きます。
- 推進側が原因になっていないか確かめる:説明が足りていたか、以前の約束を守れているか、決め方が一方的でなかったかを振り返ります。
- タイプに合う対応を、軽いものから選ぶ:教育、参加、支援、交渉の順に考えます。操作や強制は最後の手段にとどめます。
- 反映したことを伝える:指摘を受けて計画を直した点は、本人と関係者に伝えます。「言えば変わる」と分かると、次の声が早く上がります。
- 1〜2か月ごとに見直す:抵抗のタイプは、変革の段階とともに変わります。同じ人でも、最初は不信、次は不安、ということがよくあります。
AI活用のポイント:4つのタイプの目で、計画の穴を探す
生成AIは、反対の声が集まる前の段階でも使えます。変革の計画を渡し、4つのタイプの人ならどこに引っかかりそうかを先に挙げさせると、推進側だけでは気づきにくい計画の穴が見えてきます。計画を貼り付ける前に、社名や部署名、個人名など、どこの話か分かる部分は消しておきます。
これから社内で進める変革の計画を、反対する側の目で点検したいと考えています。
計画の概要は次のとおりです(社名や部署名は伏せています)。
[計画の概要(目的、対象、変わること、スケジュール)を貼り付け]
次の4つの立場の人になったつもりで、この計画のどこに引っかかるかを挙げてください。
・この変革で、立場や権限、慣れた仕事を失う人
・推進側の説明をまだ信用していない人
・現場の実務に詳しく、別のやり方のほうがよいと考えている人
・新しいやり方を身につけられるか不安な人
立場ごとに、次の形で答えてください。
・引っかかりそうな箇所(計画のどの部分か)
・その人が口にしそうな言葉
・計画に書き足すか、直したほうがよい点
最後に、計画に書かれていないが、決めておかないと困りそうな点をまとめてください。
AIが挙げる引っかかりは、あくまで想像です。本当にそこでつまずくかは、それぞれのタイプに近い人に計画を見せて確かめます。実際に集まった声と照らし合わせると、計画のどこから直すかを決めやすくなります。
チェックリスト:抵抗を見立てられているか
- 反対や懸念の声を、発言者の言葉のまま記録している
- 会議で黙っている人や、進んでいない部署の声も聞きに行った
- 声を4つのタイプに振り分け、いちばん多いタイプが分かっている
- 推進側の説明不足や進め方が、抵抗を生んでいないか振り返った
- 「見立ての違い」の声を、計画づくりに取り入れる場がある
- 変化への不安に対して、研修や相談先など移行の支援を用意している
- 指摘を受けて計画を直したとき、そのことを関係者に伝えている
- 反対する人を「抵抗勢力」とひとくくりに呼んでいない
まとめ
説得でほどける抵抗は、4つのうち一つだけです。説明会をもう一度開く前に、いま聞こえている声がどのタイプなのかを見立ててください。
- 変革への抵抗には、「失うものがある」「誤解・不信」「見立ての違い」「変化への不安」の4つのタイプがあります
- タイプによって効く手は違います。説得が効きやすいのは、主に誤解・不信のタイプです
- 抵抗は推進側の進め方からも生まれます。抵抗を「情報」として聞くと、変革の計画そのものが良くなります
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参照情報
- John P. Kotter and Leonard A. Schlesinger, “Choosing Strategies for Change,” Harvard Business Review, March–April 1979(2008年7–8月号に再掲。HBRの掲載ページ)
- Lester Coch and John R. P. French, Jr., “Overcoming Resistance to Change,” Human Relations, 1(4), 512–532, 1948(掲載ページ)
- Sandy Kristin Piderit, “Rethinking Resistance and Recognizing Ambivalence: A Multidimensional View of Attitudes toward an Organizational Change,” Academy of Management Review, 25(4), 783–794, 2000
- Jeffrey D. Ford, Laurie W. Ford and Angelo D’Amelio, “Resistance to Change: The Rest of the Story,” Academy of Management Review, 33(2), 362–377, 2008(掲載ページ)




